自分のブラウザがどこまで『特定』されているかをその場で見せるGlassBox──計測はローカル完結、例外はIP情報だけ
GlassBoxは、ウェブサイトがブラウザから読み取れるフィンガープリント(指紋)情報を実際に測定し、その場で本人に見せるクライアントサイド完結のツールだ。canvas・WebGL・音声・フォント一覧などの信号を4階層に分けて集計し、識別されやすさを推定する。分析はブラウザ内で完結し、外部送信するのはIP位置情報の問い合わせだけだと公式サイトは説明している。

目次
ウェブサイトが訪問者のブラウザから実際にどんな情報を読み取れるのかを、その場で可視化するツール「GlassBox」が公開されている。公式サイトの説明によれば、トラッキングや不正検知のスクリプトが収集しているのと同じ種類の信号を、隠すのではなく利用者自身に見せる、という設計思想のツールだ。
3行まとめ
- GlassBoxは、約31系統のフィンガープリント・機器列挙プローブを実行し、その場で本人に見せるクライアントサイド完結のベンチツール。開発者はDavid Dale氏(ソロ起業家・セキュリティエンジニア)で、AliExpress(Alibaba)のサイトが音声のsawtooth波形でブラウザを識別しているコードを知ったことがきっかけだとThe Registerの取材に答えている
- 「推定識別可能性」のエントロピー値は、Panopticlick・AmIUnique・EFF Cover Your Tracksという3つの既存研究・ツールが公開した値の合算だと、GitHub公式READMEに明記されている
- The Registerの記者が実際に試したところ、Chromeセッションは「76億人に1人」の一意性、FirefoxとTorだけが「実質一意」と判定されなかった(識別可能性89%・56%)という実測結果が報じられている
サイトが自ら説明する仕組み
トップページの説明はこうだ。
Every measurement a website can take from your browser, run live and shown back to you. This is the same class of signals the tracking and anti-fraud scripts collect — surfaced instead of hidden.
(ウェブサイトがあなたのブラウザから取得できるあらゆる計測を、その場で実行し、あなたに見せる。これはトラッキングや不正防止スクリプトが収集しているのと同じ種類の信号だ——隠されるのではなく、表に出される)
計測結果は4つの階層(パネル)に整理される。1つ目は「ハードウェア・環境」で、異なるブラウザをまたいで紐づけられる信号。2つ目は「エンジン×ハードウェア」で、canvas・音声・数学演算・コーデックなど、同一エンジンファミリー内で紐づけられる信号。3つ目は「ブラウザビルド」で、どのブラウザ・どのバージョンかを示す(誰であるかではない)信号。4つ目は「セッション」で、テーマ・クォータ・タイミング・IPなど頻繁にリセットされる信号だ。
「識別されやすさ」の数値化——モデルであって測定ではない
GlassBoxはこれらの信号を統合し、「推定識別可能性」というパーセンテージを表示する。この数値の性質について、サイト本文は踏み込んだ説明をしている。
The identifiability % is a model, not a measurement. Signal ratings (High / Medium / Low) reflect research consensus — canvas, WebGL, audio, font lists and the API matrix are consistently strongest. The headline % sums published per-signal entropy, counts only what your browser actually exposes (masked canvas/GPU are discounted), applies a correlation haircut, and caps at the ~33 bits needed to single out one person among ~8 billion.
(識別可能性のパーセンテージは、測定ではなくモデルだ。信号の評価(高・中・低)は研究上のコンセンサスを反映しており、canvas・WebGL・音声・フォント一覧・APIマトリクスが一貫して最も強い。見出しのパーセンテージは、公開されている信号ごとのエントロピー値を合算し、実際にそのブラウザが露出している信号だけを数え(マスクされたcanvas/GPUは割り引かれる)、信号間の相関を考慮した割引を適用し、約80億人の中から1人を特定するのに必要な約33ビットを上限としている)
さらに、この推定モデルの限界についても正直に書かれている。
True rarity needs a live population dataset to compare against — the one thing a no-server tool can't compute on its own — so treat this as an order-of-magnitude indicator. One honest wrinkle: a browser that blends into a big crowd (Tor Browser at its default window size, say) is safer than its bit-count here suggests, because everyone in that crowd reports the same values and this model can't see that.
(本当の希少性を測るには、比較対象となる実際の母集団データセットが必要だ——これはサーバーを持たないツールが単独では計算できないものだ。だからこれは桁数のオーダーを示す指標として扱ってほしい。正直に言っておくべき癖が1つある。大きな集団に紛れ込むブラウザ(デフォルトのウィンドウサイズのTor Browserなど)は、このビット数が示唆するより実際には安全だ。その集団の全員が同じ値を報告するため、このモデルはそれを見分けられないからだ)
より正確な相対的希少性を知りたい場合は、EFF Cover Your TracksやamIunique.orgとの比較を推奨している。公式GitHubリポジトリのREADMEには、このエントロピー値の出典が明記されている。
"It sums published per-signal entropy (Panopticlick, AmIUnique, EFF Cover Your Tracks)"
(公開されている信号ごとのエントロピー値——Panopticlick・AmIUnique・EFF Cover Your Tracksによるもの——を合算する)
Panopticlickは、EFF(電子フロンティア財団)が2010年代から運営してきたブラウザフィンガープリンティング研究の先駆的なプロジェクト(現在のCover Your Tracksの前身)で、この分野のエントロピー値の代表的な出典として知られている。
開発の発端はAliExpressのサイトが使う音声フィンガープリント
セキュリティメディアThe Registerが2026年8月24日に掲載した記事は、開発者David Dale氏への取材にもとづき、開発の経緯を伝えている。Dale氏はソロ起業家・長年のセキュリティエンジニアで、Alibaba傘下のAliExpressのサイトが、音声のsawtooth波形を使ってブラウザを識別するコードを使っているのを知ったことがきっかけでGlassBoxを作り始めたという。既存のオープンソースツール(EFF Cover Your Tracks・AmIUnique、いずれもGitHubリポジトリを公開)をフォークするのではなく、自分で一から作ることを選んだとも書かれている。
"I'm a solo entrepreneur and long-time security engineer; tools like Claude Code have made it much easier to polish ideas and offer the useful ones to a wider audience"
(私はソロ起業家で、長年セキュリティエンジニアをやってきた。Claude Codeのようなツールのおかげで、アイデアを磨き上げ、役に立つものをより広い読者に提供するのがずっと簡単になった)——David Dale氏
The Registerの記者が実際にGlassBoxを使って自分のブラウザを測定した結果も記事に記載されている。
| ブラウザ | 推定識別可能性 | 一意性の目安 |
|---|---|---|
| Chrome(作業用) | 「実質一意」 | 約76億人に1人 |
| Firefox | 89% | 約6億8,100万人に1人 |
| Tor Browser | 56% | 約40万8,000人に1人 |
(出典:The Register記事本文、記者自身の実測結果)
記事はDale氏の助言も紹介している。「最も効果の高い対策は、大きく均質な集団に紛れ込むブラウザを使うことだ。逆説的だが、念入りに『ハードニング』したカスタム設定は、他の誰ともまったく同じ見た目にならないぶん、かえって識別されやすくなることが多い」。
ローカル完結、例外は1つだけ
プライバシーに関する設計方針も明確に述べられている。
Mostly local. Every fingerprinting probe runs in your browser and stays here — no analytics, no beacon. The one exception is IP intelligence: on load, GlassBox queries public geolocation APIs (ipwho.is, ipapi.is, geojs.io) to look up your address, network and VPN status. Turn Geo off in the toolbar to stay fully local. View source to confirm the rest.
(ほぼローカル完結。すべてのフィンガープリント計測はブラウザ内で実行され、そこに留まる——アナリティクスもビーコンもない。唯一の例外はIPインテリジェンスだ。読み込み時、GlassBoxは公開のジオロケーションAPI(ipwho.is、ipapi.is、geojs.io)に問い合わせ、住所・ネットワーク・VPN状態を調べる。ツールバーでGeoをオフにすれば完全にローカルのままになる。それ以外はソースを見て確認してほしい)
「ブラウザに埋め込まれた状態(iframe内)で見ている場合、一部の計測(WebRTC・メディアデバイス・パーミッション・センサー)はフレームの権限ポリシーによってブロックされる可能性がある」という注意もあり、フルの計測結果を見るには自分のオリジンでホストする必要があるとされている。
開発元——CodeCanaryの姉妹ツール
GlassBoxは、サイトのセキュリティヘッダーを採点し、JavaScriptの改ざんを検出し、MCPサーバーをチェックするパッシブスキャナー「codecanary.org」の姉妹ツールと位置づけられている。公式サイトのHTMLソースを確認すると、GitHubリポジトリは「HotStartLabs/glassbox」(確認時点で24スター、2026年8月31日再確認時点では25スターに増加)であることが分かった。
CodeCanary公式サイトを確認すると、姉妹プロダクトの構成がより具体的に分かる。サイトが配布するJavaScriptをハッシュ化して継続的に再検証する「canary」機能(Meta Code Verifyと同種のアプローチだと自己説明している)、6つの主要セキュリティヘッダーをA+〜Fで採点するスキャナー、MCPサーバーの認可設定やクレデンシャル漏洩を検査する2種類のMCPスキャナーが並び、GlassBoxはその中で「自分のブラウザが何を露出しているかを見せるコンパニオン・ベンチ」と位置づけられている。canaryのフッターバッジには、無料の第1階層行動スキャンに通ると「シルバー」、Anthropicの「Claude Fable 5」によるコードレビュー(Tier 2)まで通ると「ゴールド」というランク付けがあることも、同サイトの説明に明記されている。
自分のスコアは計測しておらず、計算式の内部ロジックまでは追えていない
GitHubのREADMEとThe Registerの取材記事まで確認したことで、開発者名・開発の経緯・エントロピー値の出典(Panopticlick・AmIUnique・EFF Cover Your Tracks)・第三者による実測例は判明した。計算の中身についても、ページのソースを開けば ENTROPY_BITS = { screen:4.8, hz:1.3, ... canvas:8.5, audio:5.2, fonts:6.5, ... } という信号ごとのビット数一覧と WORLD_BITS = 33 がそのまま読める(サイト自身も「View source to confirm the rest」と案内している)。ただし本記事では、この一覧を全項目そろえて並べ、割り当てられたビット数が妥当かを評価する作業までは行っていない。実際に自分のブラウザでGlassBoxを計測し、The Register記者の数字(Chrome=約76億人に1人など)と自分の環境を比較する検証もしていない。
「同一エンジンファミリー内」「クロスブラウザで紐づく」といった各階層の分類も、サイト自身の自己申告に基づく分類であり、GitHub・The Register以外の独立した第三者によるフィンガープリンティング研究との突き合わせまでは行っていない。この記事を書いている自分自身はセキュリティ・プライバシー分野の専門家ではない。
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